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ピアノの湿度対策 5

それではピアノに湿気の影響で故障が発生した場合はどうすれば良いでしょうか。
発生してしまった症状はそのまま放置しても直る事はありません。
但し、日によって又は時間帯によって湿度が変わる為に症状が少しましになったり、
ひどくなったりする事はあります。

故障が起こったらまず調律師に修理依頼をして下さい。
調律師が前述のような作業によって特にひどい症状が発生している個所を直します。

ときどきお客様の中で〔調律をすれば故障が直る〕と勘違いされている方がおられますが
〔調律〕は弦の張力を調整して音程を整える作業ですから〔調律〕では故障は直りません。
〔調律〕〔整調〕〔整音〕〔修理〕は各々別々の作業ですので依頼時には必ずどのような
症状が起こっているのか詳しく伝えて下さい。

次に故障予備軍に対してどのような処置をするかですが、修理後にどのような予防策を
取るかによってその手法が異なります。
又、湿気の原因が何かによってお薦めする予防策も異なります。

再発予防策として効果が期待できる物は
①除湿機の設置 ②ダンプチェイサー(ピアノ用ヒーター)の取付
この二つです。
湿度調整剤は故障が起こり難くする為には一定の効果が期待できるようですが、湿気による
故障が起こってしまう設置環境での故障再発予防には単独では力不足だと思います。

予防策について詳しくはこちらを参照して下さい。  ピアノの温度湿度対策
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ピアノの湿度対策 4

鍵盤自体に原因があって同様の不具合が発生する事があります。
鍵盤先端部の裏側と鍵盤中央付近の上面にフレンジ同様のブッシングクロスが貼られて
いる個所があり、鍵盤の上下運動のガイドになる棒状の金属〔フロントピン〕〔バランスピン〕と
接触しています。
このブッシングクロスが湿気を帯びて膨張し、各ピンを圧迫して抵抗が大きくなり鍵盤が上がって
来ない、或いはゆっくりとしか上がって来ないと言う症状が起きます。

鍵盤にはもう一ヶ所不具合の原因になる部分があります。
それは鍵盤の木部と鍵盤中央付近のバランスピンが直接接しているバランスホールと呼ばれる
個所で、鍵盤の木が湿気を帯びて膨張してバランスピンを圧迫し、同様の症状が発生します。

修理方法はブッシングクロス部分はキープライヤーと言う工具を使ってブッシングクロスをカシめ
て各ピンとの隙間を調整し、バランスホールはバランスホールリーマー又はキーコロシと言う
工具を使って穴を押し広げます。

これらの処置はフレンジ同様に完全永久的に直る訳では無く、管理環境が変らなければ必ず
再発します。
鍵盤が原因での不具合はフレンジに比べてかなり高い確率で再発します。

又、バランスピンの根元が腐食してピン自体が膨張し、鍵盤が抜けなくなるほどのサビが発生
する場合もあります。
この場合はバランスピンの交換が必要になります。

鍵盤4 フロントピン  鍵盤6 鍵盤5 
フロントブッシングクロス       フロントピン      バランスブッシングクロス   バランスホール     
バランスピン        鍵盤7
  バランスピン

                   

ピアノの湿度対策 3

前述のフレンジと言う部品に原因がある場合は、回転軸になる金属の棒状の部品〔センターピン〕
を交換して修理を行います。
このセンターピンは長さ約12mm・太さは1.200mmから1.500mmまで0.025mmずつ段階的に
太さの違う部品があり、そのフレンジがスムースな回転運動をする為に最も適した太さの物を選択
して交換します。
又、織フェルト〔ブッシングクロス〕に潤滑剤を塗布するだけでスムースな回転運動が行えるように
なる場合もあります。
しかし、この処置で完全永久に直る訳ではなく管理環境が変らなければ同じ個所で同じ症状が
再発する可能性が十分にあります。

又、動きの悪さが特に目立つ鍵盤だけ数本修理をしても、実際にはその他の鍵盤でも同様の
症状が起こっていると見るべきで、その症状がかなりひどくなってしまった物から順次不具合が
発覚するだけで、全ての鍵盤がその予備軍であると思って下さい。

このような説明をして、予防策やアクション全体に対する処置をお薦めしても
「高くつくから動かなくなった鍵盤だけ直して!その他は何もしてもらわなくていいです」
とおっしゃるお客様がおられます。
そんなお客様にかぎって、少し経過すると又他の鍵盤で同様の症状が発生した時に
「つい最近直してもらったばかりなのに、又鍵盤が戻らない所が出てきた。もう一度キチット直しに
来て下さい」とお叱りのお電話を頂戴する事があります。

前回修理時から1~2ヶ月以内程度で修理をした鍵盤に全く同様の不具合が発生した場合は、
クレームとして賜わるようにはしていますが、それ以上の期間が経過していたり、他の予備軍に
不具合が発生している場合は勿論料金を頂戴しています。
現実には次々と他の鍵盤に不具合が発生する事が殆どです。

不具合の発生都度1本づつ直していたのでは、その都度出張費や技術料等が必要で、合計すると
結果的にはかなり高額になってしまう事が多いと思います。
又、常に動きの鈍い鍵盤とスムースな鍵盤が入り混じった状態で我慢しながら弾奏しないと
いけない事にもなってしまいます。




ピアノの湿度対策 2

ピアノが湿気の影響を受けて生じる不具合の代表的な現象は
・連打(トリル)をした時に鍵盤の戻りが遅い為にきちっと弾けない
・同じ鍵盤を遅いスピードで繰り返し弾いた時に、だんだんと音が出にくくなる。
  少し間をおいて弾いて見ると又一度目はきちんと鳴るがだんだん音が出にくくなる。
・弾奏をした時、鍵盤が降りたまま上がってこない(ゆっくりとしか上がってこない)

これらの不具合はアクション内部の部品又は鍵盤に原因があります。
アクション部での主な原因は写真左のフレンジと言う部品です
この部品は鍵盤を弾いてから幾つもの部品が回転運動を繰り返しハンマーが弦を打つ
運動に変換する為の回転軸(蝶番のような)の役割を果たし、アップライトピアノでは
一音分のアクションにつきこのフレンジが4個所に使用されています。
このフレンジに使われている織フェルトが湿気を帯びて膨張し、センターピンと呼ばれる
棒状の金属(真鍮)を圧迫して、回転運動に大きな抵抗が加わり、スムーズな回転運動が
出来なくなってしまいます。
弾く時には抵抗が強くても指の力で一気に運動をさせますが、元の状態に戻る時には、
重力やスプリングの力のみで動くので抵抗が大きいと戻るスピードが遅くなり、極端な
場合には途中でアクション運動が止まってしまいます。
これが上述した不具合が起こる原因です。

      フレンジ2        レンナーUP3のコピー

ピアノの湿度対策 1

ジメジメした梅雨の季節になりました。ピアノにとって湿気は大敵です。
しかし多湿だけではなく、過乾燥もピアノにとって大敵です。
つまり、大きな湿度変化にピアノの部品が影響を受けてしまうのです。

その理由は、木製部品やフェルト類など湿気の影響を受けやすい部品と金属部品とが
組み合わされて作られているからですが、金属部品でも極端な湿気(冬場の結露など)
があればサビが発生して故障の原因になります。

では湿気からどのようにしてピアノを守ってあげれば良いでしょうか。
梅雨からちょっと話がそれてしまいますが、ピアノの湿度対策は〔梅雨時期の湿気〕と
〔冬場の寒暖差で生じる湿気〕〔空調機器の影響による湿気〕に別て考えなければ
適切な対策を講じる事が出来ません。
私の経験から得た湿度対策に対する考えを幾つかお話させてもらいます。

プロフィール

 Piano Platz

Author: Piano Platz

ベヒシュタイン認定ピアノ技術者

ヨーロッパ製ピアノのメンテナンス・販売から消音ユニットの設計・開発などの仕事をしています。

  http://www.pianoplatz.co.jp

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